
Interview
鐵結成35周年を迎えた
JAPANESE SKINHEADSの雄が提示する
表現者の信念と矜持

永きにわたり日本のSKINHEADSシーンを牽引、本年35周年を迎えて『狼息“ROUSOKU”』と銘打った企画を鋭意敢行中の鐵槌。ライブの密度と純度が最高潮に達する35周年の集大成、11月23日(日)にLIQUIDROOMで行なわれるワンマン・ライブに向けて、田中昭司(Vocal)と高橋是高(Guitar)に話を聞いた。
Interview:石川純 / HOT STUFF PROMOTION、Composed:椎名宗之 / Rooftop
Photo 1 :松林天狗 / 2~5:白石圭一郎
◉鐵槌黎明期の活動を振り返る
──1990年12月に発表されたコンピ盤『COME ALONE TO THE HOLY NIGHT, SKINHEADS』が鐵槌の歴史の始まりですね。
田中昭司(以下昭司) そうだね。そのコンピの話をもらったのでバンドを作って参加するかという、最初は軽い感じだった。
──その前のHERBERTZを解散してSledgeHammerを立ち上げたと?
昭司 HERBERTZは活動停止してたから、完全に新しいバンドとして始めた。
──高円寺20000Vで行なわれていた『SKINHEADS NIGHT』が、コンピ盤『狼の宴』(1994年11月発表)のリリースを経て企画名が
『狼の宴』となったのですか?
昭司 『SKINHEADS NIGHT』とは関係ない。あれはライターの中込(智子)の企画だったから。その後、自分たちの好きなバンドと一緒にやっていきたいということで『狼の宴』などいくつかのイベントを始めた。やりたいバンドとやれるようにコントロールしていきたい気持ちがあったので。
──鐵槌主催の『ICE PICK』は、1997年くらいに東名阪のツアーの一環として旧新宿LOFTで始まった記憶があるのですが。
高橋是高(以下コレ) 1997年か96年だったと思います。俺は97年に観に行きました。まだ18、9の頃。
──鐵槌黎明期と言えば、このたび現メンバーで再録された「ハカナキハナヨ」(「儚き花よ」)は活動初期から披露されていましたよね。
昭司 でもレコーディングできたのはドラムが(千葉)浩靖になってから。それまではちゃんとした形にできなかった。
──ベースの宮尾(卓美)さんと千葉さんが加入したのは『狼の宴』のレコーディングの直前だったんですよね?
昭司 そうだね。94年の時点で、俺、大きい千葉君(千葉和成)、宮尾、浩靖。
コレ ステージでは原田(直治)さんもギターをツインで弾いてましたよね?
昭司 うん。原田も弾いてたし、山口健太郎も弾いてた。で、96年に新谷清利がギターで入って『日本狼』(1999年8月発表)の編成になる。コレが入ったのは2004年?
コレ 加入したのは2003年ですね。初ライブが2004年1月にANTIKNOCKでやった『ICE PICK』だったので。

◉「鐵槌独立宣言」を体現した『士』の世界観
──ロクさん(新谷清利)の加入を経て音楽性が大きな広がりを見せ、コレさんが加入した現編成となってさらに発展を遂げた印象があるんです。勢いや激しさの中にも繊細さや幽玄さを感じると言いますか。
昭司 ロクちゃんが新な鐵を鍛え上げ、コレはそれを自由自在な形なきカタチで神化させた感じだね。
──コレさんが入って最初に出た公式音源が「陰獣」(2014年9月発表)でした。その3年前に東日本大震災が起こり、『東北ライブハウス大作戦』や『POWER STOCK』、『AIR JAM 2012』といったステージに立つなど鐵槌として表現する場が広がっていったのも現体制になってからですよね。
昭司 それもあるけど、浩靖が石巻出身で、被災した地元の仲間たちをサポートしたいという意向があったから。自分たちにできることがあれば力になりたかった。だけどステージの大小は関係ない。どこで何をやるのも変わらないし、人が多くて気圧されるような音楽をやってるつもりはないし。
──結成25周年(2015年)を迎えた際、その年末に昭司さんが発表した「鐵槌独立宣言」に自分は強い衝撃を覚えまして。右でも左でもなく、あらゆる思想にも囚われず、日本の文化や価値観を礎として音楽を創り続けていくという。
昭司 あれは一つの区切りだよね。それまでやってきたことを否定するつもりはないけど、現在の率直な気持ちや、表現とどう向き合っているかを示しておきたかった。
コレ だいぶ前からそうだったのを改めて提示したという感じですよね。99年の『日本狼』のインタビューでも昭司さん大体同じようなこと言ってますからね。
──2022年2月に発表されたアルバム『士』における唯一無二の世界観は、まさにその「鐵槌独立宣言」を体現した形であり、有言実行の成果だと感じたんです。
昭司 音楽は本来、自由なものだから。スキンヘッズだからどうこう、パンクやハードコアだからどうこうと些細なことに拘る必要はない。コレが曲を作って俺が唄えばどんな形であれ鐵槌になるわけだし、そのバンドの在り方を『士』というアルバムはよく表していると思うよ。
コレ 『士』はかなり新しいアプローチが多いようだったけど、いざ完成して振り返ってみたら鐵槌以外の何ものでもなくて。際の際まで攻めたつもりだったけど、全然ど真ん中だなって(笑)。なのでまだまだ際を攻める作業ができるな、と思いましたね。
昭司 30年以上の変遷を経て蒸留された感はあるね、『士』というアルバムは。
──その『士』のレコ発ツアー『百狼夜⾏』で、アルバムの収録曲を全部披露されたのが意外だったんです。
昭司 古い曲と混ぜてないのが驚きだった?
コレ 確かに、既存曲と混ぜた結果、新作から1、2曲脱落するのが普通ですよね。
──はい。自分が観たのは初日のEARTHDOM(2022年4月9日)の配信だったんですが、本編で『士』の全11曲を余すところなく披露する潔さに感銘を受けたんです。そして1年後の千秋楽、FEVERでのワンマン(2023年4月22日)を観て、鐵槌の表現をもっと大きなステージで、ワンマンライブとして観たいと強く感じました。生で初めて観た「風は静寂に」が個人的なハイライトのひとつで、あの曲を体感してもっと広がりのある空間でやっていただきたいと。
昭司 なるほど。「風は静寂に」はコレが一番初めに作った曲なんだよね。
コレ ですね。レコ発に関しては俺自身も既存曲と混ぜた相乗効果を楽しみにしてたんですけど(笑)、昭司さんが当然のように「本編は『士』全曲で行こうよ」って。
昭司 新しい曲を作ったらやっぱりそれを押したいんだよね。古い曲を一生やらないわけじゃないし、この年はこれを聴いてくれって言うかさ。
コレ 何よりやるほうも初めて演奏するし聴くほうも初めて聴く、あの空間の純度みたいなものは本当に凄かったですね。ライブで曲が増えてから作ったアルバムじゃないので。この時はコロナ禍だったのもあるけど、今後もできるだけそういうやり方で行きたいなあ。

◉ライブを絞って密度で勝負するのが鐵槌らしさ
──『士』のツアーの後、2023年11月23日に鐵槌がオーガナイズしたイベント『New Vintage Axis』でBAREBONES、boris -drone set-、envyと共演しました。あれだけ規模の大きい企画は初めてでしたよね。
昭司 そうだね。純にもサポートしてもらって、大変だったけどいろいろと勉強になった。会場のLIQUIDROOMは広いし、すべてにおいてやりやすかった。今度の11月のワンマンでもお世話になるけど、演出面でやれることがいろいろあると思う。広い所ならではのライトワークを効果的に使うとか。音と言葉と光の三位一体を形作るのも面白いだろうし。
コレ 自分が入る前から鐵槌は楽曲の幅が広かったと思うし、せっかくだから照明に凝ってもいいんじゃないかとずっと思ってたんですよね。いつも照明の希望のところは「暗め」くらいしか書いてなかったけど(笑)。
──鐵槌が結成35周年を迎えるにあたり、自分としては『New Vintage Axis』を経てLIQUIDROOMでのワンマンを敢行することに大きな意義があると感じて僭越ながら提案させていただいたんです。「鐵槌のためなら」と快くスケジュールを押さえてくれた会場の心意気にも応えたいですし、より多くの人たちに鐵槌のライブを観ていただきたいんです。
昭司 会場の厚意はとても有難いことだし、いろんな人に観てもらうための努力を当然しなきゃいけないと思ってる。

──今年は『狼息 “ROUSOKU”』と題した企画を9月の『ICE PICK』を含め、3カ月に一度のペースで開催されています。これだけハイペースで自主企画に取り組むのも初めてですか。
昭司 年に4回、自主企画のみでやっていくアイディアはコレの発案で。普通、節目の周年ならライブを増やしたり派手にするんだろうけど、それよりも自分たちの企画を精選し、一緒にやりたいバンドとじっくりやるのがいいんじゃないかってことで。実際そうしたことでライブの純度が上がり、お客さんが楽しんでいるのが伝わってくるので良かったと思う。
──3月22日のEARTHDOM、6月21日のFEVER、9月20日の新宿LOFTでの『ICE PICK』を経て、11月23日のLIQUIDROOMワンマンへ集約されていくのが良い流れですし、ライブの密度と純度が高まる鐵槌のステージを体感できますね。開催のペースもちょうど良いですか?
昭司 企画を年に4回やるのは結構大変だね。コレはどう?
コレ 大変ですけどね。例えば新しいアルバムの用意があったりするならライブを増やしても良かったのかもしれないけど、そうでないなら1回1回丁寧に、密度で勝負したほうが鐵槌らしくていいですもんね。今のところ上手く行っているので良かったですよ。
──先述した「ハカナキハナヨ」の7インチレコードとしてのリリースですが、終戦80年とバンド結成35周年という大きな節目に発表されることに深い意味を感じますね。
昭司 リリースのタイミングは偶然なんだけど、偶然もいろんなことが重なると必然になる。その時はその流れに逆らわず、時宜にかなったものを世に問う。それもまた運命と言うのかな。まあ、いつかは今のメンバーで録っておきたいと思っていたから、「儚き花よ」は。
コレ 俺もいつか自分のギターで録りたいと思って、そう言ってもいたんですけど、昨年末近くに昭司さんから「年明けに録ろう」と急に言われて。そのタイミングが来たんだな、と思いましたね。
昭司 初めは古い曲をもっと録り直そうか? という話もあったけど、ここは潔く1曲だけでいいんじゃないかって。
コレ 『日本狼』の時も敢えてアルバムには入れなかったんですもんね。
昭司 うん。これはこれで別物と言うかね。今回また録ってみて、前のとはだいぶ違う感じでいいと思う。

◉歪で偏った表現でも純度と熱があればいい
──LIQUIDROOMでのワンマンの演目は決まっているんですか。
昭司 まだ何も決めてない(笑)。
コレ 基本はいつも通りですね。せっかくの大きなハコなので、さっきも話した通り照明に凝ったりとかはあるかもしれないけど、基本は特別なことやらずにいつも通りがいいかなと。
昭司 いずれにしろ、歴代のメンバーを呼んでどうたらみたいなことはしない(笑)。古い曲はやるかもしれないけど。
──たとえば35年の歩みを凝縮したようなセットリストで固めるといった構想はありますか。
昭司 歩みを見せられるのは今だけだから。常に今がベストであり、今あるべき姿を見せるしかない。その時々で得たインスピレーションを拠り所として何をやりたいのか、現状のベストとは何なのかを考える。作為的に過去の産物を散りばめても純度と熱量が薄くなるだけ。何かに偏っていようが歪だろうが、表現として成り立っているならそれでいい。正多角形のレーダーチャートってあるでしょう? ああいうグラフで平均的になる必要はないと思ってるから。どこか一方が偏ったものであってもそれはそれでその時の鐵槌であり、それでいいと思ってる。
──では最後に、35周年の総決算ワンマンに向けて一言いただけますか。
コレ 今年一年通してのライブのやり方を考えた時にしたって、そもそも純さんからLIQUIDROOMでのワンマンの話をすでにいただいていたわけで、そのワンマンを4回のイベントのクライマックスにしようという発想になったこと自体、純さんのおかげなんですよ! 大袈裟に聞こえるかもしれないけど、そういう奇跡の連続で出来ているんです。
昭司 そうやって手厚くサポートしてくれる人間がいてくれることこそが財産だし、こうして35年ものあいだ音楽をやってこれたのは自分たちの力だけじゃないからね。古い仲間たちや新しいリスナーたちがいてくれたおかげでここまでやってこれた。ライブをやるたびに新たなフォロワーたちと出会える喜びもある。今年は現時点で2回イベントをやって、どちらもお客さんがとても楽しそうで、その顔を見て今まで自分たちがやってきたことは間違いじゃなかったと確認できた。このインタビューが誌面に載る頃は『ICE PICK』も終わっているけど、そこで得たエネルギーのベクトルを今年最後のワンマンにぶつけて完全燃焼したい。
コレ ワンマン当日に何をやるのか!? というより、そういう皆さんと一緒に作っているこの形が、この35周年なのかなと思います。
昭司 その形こそが理(ことわり)であり、形が意味を作り上げている。きっと美味い酒が飲めると思ってるし、すべてをやりきった後はみんなと祝杯をあげたいね。
令和四年五月二十日
新宿某所にて
鐵槌は求められるものを作らない。
何かを変えていかないと、いつまで経っても同じことの繰り返しになってしまう

「待たせただけのものは作った」
メンバー自らそう語る通り、鐵槌がついにリリースした新作フルアルバム『士』は、鐵槌ならではと言える唯一無二のエクストリーム・ロック・サウンドをさらに更新したことを思わせる傑作となった。その大きな聴きどころとなっているのが、バラードも含むパンク/ハードコア/ヘヴィ・メタルだけにとどまらない楽曲の振り幅だ。
今回のインタビューでは、その振り幅がどんなところから生まれたものなのかを切り口に『士』のバックグラウンドはもちろん、今一度、鐵槌というバンドが持つ本質を浮き彫りにしようと試みた。バンドを代表して質問に答えてくれたのは、田中昭司(Vocal、以下『昭司』)と高橋是高(Guitar、以下『コレ』)の2人だ。
Interview:山口智男
鐵槌 SLEDGEHAMMER OFFICIAL MUSIC VIDEO
"百狼夜行” "Dominate the midnight"
― ― 4月9日の新大久保EARTHDOM公演(「鐵槌 独演會 “百狼夜行”」)を皮切りにリリース・ライブを行っているところですが、『士』に対する観客の反応からどんな手応えを感じていますか?
コレ:今回、初めてサンプル盤でコメントを貰って載せたり、リリース前から煽ったりって事をやったので、反響はリリース前からジワジワと感じていたし、リリース後もリスナーの人のSNSの書き込みなどで、自分らの感触に対して決して遜色無いリアクションは得られているとは感じてました。レコ発ワンマンも遠方から来てくれたお客さんや仲間もいたりして、みんなじっくり聴いてくれてる感じでしたね。演る方も初めて演るし、聴く方も初めて聴くという状況ならではの濃密さがあって、そんな雰囲気がとても良かったです。何よりみんな楽しそうで。
昭司:ライブ自体も久しぶりだし、やっている楽曲が丸々、これまでとは全く違うことをやってるから。「おぉ、こういう感じか!」って、みんな思ってたみたいですね。鐵槌は求められているものを作らないから。自分らが良いと思うものを作ってるんで。だから「鐵槌、新作を出すんだ。えっ、こういう音楽なの!?」っていうのがいつもあると思うんですよ。それはある意味、裏切ることになるのかもしれないけど、そこから何かを変えていかないと、いつまで経っても同じことの繰り返しになってしまうので。
コレ:1stの時もそういうギャップはあったと思うし、その辺の辻褄みたいなものはこれから合っていくのかなと思いますね。良い意味での裏切りで予想を超えようとするのは音楽を作る上で大いに原動力だし、バンドやってる人は皆少なからずそうだと思います。
― ― 最初は驚いていたお客さんも「前とは違うけど、鐵槌、やっぱりかっこいい」と、これまでもなっていたわけですね?
コレ:当時まだ俺は客ですけど、『日本狼』の曲を発売前にやってた頃も、みんなそれなりに戸惑ってる様子でしたよね。
昭司:元々コードの曲だったのが、『日本狼』では全部、リフの曲になったからね。
― ― そのタイミングでリフの曲に変えたっていうのは、意識的なものだったんですか?
昭司:いや。俺は元々、畑が違ったと言うか、パンクよりもハード・ロックを小さい頃から聴いてて。ただ、それを具現化できる曲を作れる人がいなかったから、コードの感じでやってただけなんですよね。でも前のギターのロクちゃんがそういうの作って来て。そういう曲も鐵槌の音に出来るなら、俺はそっちの方が好みだから「じゃあ、それで行こう。やっとやれる」みたいな感じで、『日本狼』が出来たんですよ。だから変えたわけじゃなくて、やりたかったことが出来るようになった感じかな。
― ―『士』のブックレットには、「詞:田中昭司 曲:高橋是高」とありますが、曲は昭司さんがこういう曲を作りたいというイメージをコレさんに伝えて、そのイメージからコレさんが作るというスタイルなんですか?
コレ:一番多いのは俺がワンコーラスくらい持って行って「こういうのやりましょ」っていうパターンですね。そこからイメージを擦り合わせていく感じ。
昭司:場合によっては、歌のイメージや、音のイメージを伝えることもあるけど、「こういう曲を作って」って、あんまりないですね。言うこともあるけど、だからって、絶対にそういう曲じゃなきゃみたいなものはなくて、そこは何でも良いと言うか、間口は広いと言うか。持ってきたものが良ければ、それが良いってスタイルなので。あんまり細かい注文はしないよね?
コレ:ですね。何曲かは、「こういう感じの曲やりたいんだけど」って言われて出来た曲もあるし、他は俺が持って来てそこから「もうちょっとこうした方がいい」みたいに擦り合わせていったりで、どっちにしてもトータル的には一緒に作ってる感じですよね。
― ― 昭司さんが「こういう感じの曲」って言う時は、たとえば、どんな言葉で伝えるんですか? たとえば、何とかってバンドの、何とかって曲みたいなのやりたいんだけど、というような伝え方もするんですか?
昭司:そういうパターンもありますよ。「あのバンドのこういう感じみたいな」とか、「あのアニメの曲みたいな雰囲気で」とか。
― ― アニメですか?
昭司:アニメの曲って構成が面白くて、よく出来てるんですよ。俺、何でも聴くんで、良ければ。だから具体例として、「こういうのどう?」って曲を持っていったりはします。口で言うより、聴かせた方が早いから。
― ― アニメご覧になるんですか?
昭司:観ますよ。
― ― たとえばどんな作品を見るんですか?
昭司:最近、何見たかな。『攻殻機動隊』とか『進撃の巨人』かな。
― ― ひょっとして、『平家物語』も見ました?
昭司:観ましたね。何か適当にいろいろ見てますよ。『平家物語』は、映画(『犬王』)も観に行こうと思ってます。原作の小説(『平家物語 犬王の巻』)を読んだら面白かったんで。盲目の琵琶法師と能楽師が2人で世界を変えようぜっていうね。
― ―『士』の制作はいつ頃、どんなところから取り組んでいったんですか。2019年にはアルバムを見据えて、すでに曲作りを始めていたそうですね?
コレ:そうですね。2019年に曲作りを始めて、2021年の4月から録り始めました。でも楽器隊を録り始めた時でも歌がどう乗るかは半分も決まってなくて、録りながら昭司さんが少しずつ歌を作って、出来たところから録ってた感じでしたね。
― ― そういう作り方だったんですね。
コレ:そういう作り方って言うか、昭司さんが全然タイムリーに歌作ってくんなくて(笑)
昭司:考えてたんだって(笑)
コレ:被せ系のフレーズやソロとかって歌の乗り方とかテーマによって変わるじゃ無いですか?だから最後の最後まで、ギターの細かいところを録り直したり、ソロは前のじゃもう合わないから作り直すって言って録り直したり、って感じでしたね。
― ― コレさんが作る曲にはボーカルのメロディは入っていないんですか?
コレ:仮歌は一応入れてますけど、そこから変わる曲もあるので、スタジオで2人で擦り合わせながら作ってます。
がんじがらめは、まっぴら御免だからね。
譜も楽曲も自由奔放に。ただ筋金入りなら言う事無しだと思う

Vocal. 田中昭司
― ― いただいたプレスシートに「収録される11曲全ての楽曲が、相違なる色彩を纏い(中略)、多様なる楽曲の完成度の高さに、多くの人々が確実に驚愕するだろう」と書かれていたように多様なる楽曲の完成度の高さが『士』の大きな聴きどころだと思うのですが、アルバムを作るにあたっては、多様なる楽曲を作ることがテーマとしてあったのでしょうか?
コレ:自分が作った曲だけでフルアルバムを作るという体験が、俺は他のバンドも含め初めてだったんですけど、けっこう界隈のバンドのアルバムって、どこを切り取っても同じ音像な感じが多いですよね。もちろんそれが良さだったりもすると思うんですけど、俺の中ではアルバムってこういうものだと昔から思ってて。
― ― いろいろな曲が入っているものだ、と。
昭司:俺はアルバムだから云々ってのはなくて、コレが持ってくるものが良ければ、それで良いって考えなんで、基本的に。それが激しい曲だろうが、大人しい曲だろうが、それをカッコ良く曲として完成度を上げられれば、それで全然いい。形が何であれ、これじゃなきゃダメだとか、あれじゃなきゃダメだとかは俺は全くない。このルールに基づいて作らなきゃいけないっていうのはないんですよ。がんじがらめは、まっぴら御免だからね。譜も楽曲も自由奔放に。ただ筋金入りなら言う事無しだと思うので。むしろ、そういうバンドの方が世界で通用している。だから、そこは臨機応変に、良いか悪いかだけの判断ですよね。
― ― 良いか悪いかの判断をするとき、昭司さんは何を基準にするんですか?
昭司:俺は完全に感覚の人間なんで、自分が聴いてきた音楽のアイデンティティの中から選別して選ぶだけです。そこからイメージして、出来上がったものがどういうものになるのか導き出して、あ、これでイケるじゃん。そんな感じですね。
― ― つまり、今回のアルバムの楽曲の幅広さは、お二人のバックグラウンドが反映されているわけですね。
昭司:そうでしょうね。元々近いしね。親父さんが元々、ハード・ロックを聴いてたんだもんな?
コレ:子供の頃は古臭いものにしか感じられなかったですけどね(笑)、影響があるかは分からないけど家ではツェッペリンからビートルズまでかかってましたね。
― ― 年齢を経てようやく良いと思えるようになったわけですね。
コレ:でも、「実はカッコ良かったんだ!」って思って聴くというよりも、自分の中に取り入れられるようになったっていう感じかなあ?
昭司:受け入れられるようになったってこと?
コレ:俺、あんまりリスナーの視点って持ってなくて、音楽聴く時は子供の頃から、「こういう曲ってどうやって作るんだろう?」とか、「自分ならここもっとこうするのにな〜」とか、「こういう曲を作れるようになりたい!」みたいなことしか考えてなかったかも(笑)
― ― YouTubeでコレさんがピアノを弾いている動画を見たんですけど、ピアノを子供の頃から習われていたんですか?
コレ:音楽やるのに関しては一応ピアノが原点ですね。
昭司:絶対音感だから、この人。だから、細かいことは全部任せてるんで。
― ― そんな昭司さんの音楽的なバックグラウンドは?さっきパンクよりも前にハード・ロックを聴いていたとおっしゃっていましたが。
昭司:そうですね。小さい頃から近所のお兄ちゃんがハード・ロックとかビートルズとか、あの辺の音楽が好きで、よく聴かせて貰ってたんですよ。歌謡曲よりもそういうロックを小さい頃から聴いてたから、修学旅行に行った時もみんなで歌うような曲を知らなくて、「そんなの知らねえよ」って言ってましたね(笑)
― ― その後、パンクに出会った、と。
昭司:そう、衝撃でしたよ。でも、音楽にはそんなに興味はなかったかな。あのパッションとエネルギーは凄いと思ったけど。
― ― パンクが出てきた時に、それ以前のハード・ロックやプログレは古いということになったじゃないですか。昭司さん自身は、そうは思わなかったんですか?
昭司:そう思わなかったですね。一目瞭然じゃないですか。物としての作りはパンクよりもハード・ロックのほうが全然良かったから、古いも新しいも関係ない。あれはあれでもう完成していたからね。パンクはただエネルギーが凄いっていう。だから、全然違うものだと思ったけど、俺は。
次のアルバムを作る時はネイティブな、日本的なものを絶対加えたいというイメージがあった

Bass. 宮尾卓美
― ― なるほど。では、話を『士』に戻しましょう。今回の全11曲を作るにあたっては、1曲作ったら、それとは違う曲を作ろうという風に作っていったのでしょうか?
コレ:そうですね。1曲1曲、誰もがわかるぐらい違う曲が作りたかったですね。シャッフルがあって、16ビートがあって、4ビートがあって、8ビートがあって、遅いのも速いのもあって、アンプラグド的なものもあってっていう、そういうわかりやすく違う曲を作りたかったですね。
― ― 今回、多様な曲が入っている中でも特にユニークなのが4曲目の「かみさり」です。「平家物語を現世に照らし合わせた」と昭司さんは鐵槌のFacebookに書かれていましたが、平家物語を照らし合わせたから、この曲では琵琶を使ったのでしょうか?
昭司:いや、琵琶が先でした。
コレ:録る前から琵琶を使いたいと思っていて。
昭司:琵琶なら平家物語でしょって。元々、コレが持ってきた時はインストにしようかって話だったんですよね。
コレ:4年くらい前からずっと持ってたんですけど、バンドでやりにくそうだしインストかな〜って思ってて。で今回聴かせたら昭司さんの反応も予想以上に良く(笑)作ってるうちにしっかり歌モノになりましたね。
昭司:やっぱりユニークですか?
― ― かなりユニークだと思います。それにしても琵琶というのは、どんなところからの発想だったんですか?
コレ:何だったんだろ?いろんな事考え過ぎて最早憶えてないですけど、、気が付いたら、あそこは琵琶でやる!って決めてましたね。
― ― 琵琶はそれ以前から弾いていたんですか?
コレ:いえ、録音する日に初めて(笑)
― ― えぇっ!?
コレ:友人の協力で借りれる事になったので、事前にYouTubeとかで音階調べたりして、、琵琶ってどうやらチューニングも決まりが無いんですよね。なのでこのチューニングにしてここをこうやって弾いたら再現できるって算段を立てて臨みました。
― ― 琵琶の音は鐵槌の世界観には合うものですよね?
昭司:『士』の制作に入るずっと前から、次のアルバムを作る時は、ネイティブな、日本的なものを絶対加えたいというイメージがあったんですよ。だから、音楽的にも歌的にも端々でそういう要素を感じられるんじゃないかと思います。日本語で歌っているから、歌的には元々そういう要素はあったと思うけど、音像、歌両方で表現したかったんです。
コレ:原始的なものですよね。ちょっとコンセプト的に作ったところもあって、まぁ、今後のバンドのコンセプトにも少なからずなっていくと思うんですけど。
― ― ネイティブなもの、日本的なものを入れたいという発想は、どんなところから?
昭司:どんなところからって、今の日本はすっかり資本主義になってしまい、元々あるアイデンティティがなくなっているじゃないですか。俺、基本的に何が言いたいとかあまりないですけど、心情を元々のものに戻していくっていうのが一番いいんじゃないかと思うから、そういう歌は歌いたいと思ってるんです。心根って言うか、ずっと続いてきているものがあるじゃないですか。それをばっと切り離して違うものに変えるっていうのは、ちょっと違うと思うんですよ。やっぱりアイデンティティを持って、真ん中にどっしりと置いて、そこから考えていかないとダメでしょう。
― ― 7曲目の「激鋼」で《色と欲に憑かれた》と歌っていますが、昭司さんから見ると、今の日本は「かみさり」で歌っているように神が去ってしまった世界に見えるのでしょうか?
昭司:そうですね。ほんと、どうなっちゃったのって思います。アイデンティティのない民族は滅びるだけです。
― ― そのアイデンティティを象徴するものがタイトルの『士』なんですね?
昭司:それもあります。みんながどういうイメージを持っているかわからないですけど、要は矛を収められる人間ってことですよね。力を持っていても、それをどこで使うべきかわかる人間ってことですもんね、士って。別に士じゃなくてもいいですけど、日本人って違うと思うんですよね。世界的に、いろいろな面で。その辺分かりにくのかもしれないけど、俺はそれは世界に誇れるものだと思っているので、そこを捨ててまで、いろいろなことに合わせて生きる必要があるのかって思いますけどね。決してポリティカルなことを言っているわけではなくて、もっと大事な、日本の芯の部分をしっかりしましょうよっていうのはありますね。
― ―『日本狼』には「鋼」という曲もありましたし、『士』には「激鋼」という曲もあるし、歌詞にも《鐵》《鋼》という言葉が幾度となく出てきますね?
昭司:はい、キーワードとして入れるようにしてますね。
― ― さっきおっしゃっていた芯の部分に繋がる言葉なのかなと思いました。
昭司:そうですね。言葉って、耳に入るものと目に入るものの2種類あるじゃないですか。俺はそこを別に考えていて、尺に合わなくて歌えないものは、歌ってなくても歌詞カードに足しますね。
― ― 11曲目の「謳え、牙ある者たちよ」は、まさにそうですね。
昭司:耳から入るイメージと目から入るイメージは全然違うものだと思うから、聴いた人が自由に感じて貰っていいと思ってます。
― ― 日本語の意味、響きを大事にすると、ロックのリズムには乗りづらいという問題があると思うのですが。
昭司:どうなんだろう?でも、そうですね。拍の裏表が必ず出てきますよね。それを考えると、乗りづらいんですかね。
― ― あまりそういう意識はないですか?
昭司:あんまりないかな。
― ― 2曲目の「士」はそこに抗っているように感じましたが。
昭司:乗せてるつもりでやっているんですけどね。
― ― そうでしたか。
昭司:抗うつもりはなくて、俺のボーカルって独立していると言うか、けっこう自由なんですよ。そういうことを意識したことはないですね。でもそういう風に聞こえたんですよね、面白いと思います。
洋楽っぽいアプローチをしてるんだと思うんですけど、あんまりそういう風に聴こえないみたいな感じが結構面白いのかな
― ― 楽曲の多彩さについて、もう少し聞かせてください。5曲目の「鐵血符」、6曲目の「風は静寂に」、9曲目の「雪純白く咎知らず」にアコースティック・ギターで加えられたトラッド・フォークのエッセンスも印象的でした。
昭司:海外的なものを意識して作っているわけじゃないけど、さっき言ったネイティブ感から来てるんじゃないかな。
コレ:それも含め自然に出てきてるんだと思います。「風は静寂に」だけ、俺が加入当初に作った曲なんですけどライブでも当然エレキでやってたし、いつも通りに録ろうと思ってたんですけどね。でも色々考えてるうちに、親父の形見のガットギターがボロボロのまま眠ってる事を思い出して、使いました。哀悼の歌ですしね。小学生の頃に初めて触れたギターだし、今回は自分の集大成みたいな意識も勝手にあったので、良い流れでした。
― ― なるほど。鐵槌に入って、最初にバラードを作ったんですね?
コレ:たぶんその頃から、いろんな曲調があってってイメージがあったんでしょうね(笑)
― ―「風は静寂に」の女性ボーカルとの掛け合いは、最初から考えていたんですか?

Guitar. 高橋是高
コレ:2014年に櫻花とスプリット・シングルで「陰獣」という曲を録った時、今回みたいな入れ方じゃないですけど、セリフっぽい感じでYUMIRRINさん(SLIP HEAD BUTT、東京ホームランセンター)に入って貰ったんです。今回も曲を作ってて、何曲か入って欲しいなって思って。ゲストというより必然と捉えているので、必要な曲には全て参加して貰いました。
昭司:曲のイメージとして、女性ボーカルが必要だったんだよね。なかなかですよ、あの人は。プロフェッショナル。良いものが出来るってわかってたから、何の心配もなくお願いしました。イメージ通りのものになりました。「かみさり」の最後のコーラスもそうだけど、女性ボーカルじゃなきゃダメでしょ。あそこはゴスペル風の歌を入れてくださいってお願いしてね。
― ―「鐵血符」のギター・ソロもアコースティックギターですがどんな経緯で?
コレ:イメージが出てくるままに作っただけなので、何かを狙ってるつもりはなくて、あの間奏思い付いた時点でアコギでしたね。でも一口にアコギって言っても、「鐵血符」はフォークギター、「風は静寂に」はクラシックギター、「雪純白く咎知らず」のアコギは12弦ギターなので、地味にいっぱいギター使ってますよ(笑)
― ― 12弦ギターとボーカルだけの「雪純白く咎知らず」も異色曲と言えますよね?
昭司:あれ、ほとんどぶっつけ本番だったんだよね。そもそも歌を入れる予定だったんだっけ?
コレ:歌は入る予定だったけど、歌なのか、語りなのか、どうなるかわからかないって感じで、「でも、何とかなるでしょ」ってレコーディング直前のリハで即興でやったものが凄く良くて。これは初期衝動の危うい感じが凄く良いから変に作りこまないでやろう!ってなって、ああなりましたね。
― ― 音像のユニークさは今回のアルバムの中でも際立っていると思います。
コレ:激しい曲ばかりだと疲れちゃうんで。クッションになるような曲は欲しいですよね。
昭司:「ブルーズっぽいものを作ってくれ」って言ったんだっけ?
コレ:いや、あれは特にそういうつもりじゃなかったけど、前から枯れた感じのブルーズも歌いたいって言ってましたよね。
― ― ブルーズにもいろいろありますが、昭司さんが好きなのは、どんなブルーズですか?
昭司:ライトニン・ホプキンスが好きですね。ブルーズがポピュラー・ミュージックとして完成するよりもだいぶ前のブルーズがいいかな。
― ― その他、トラッド・フォーク以外にも3曲目の「百狼夜行」のシャッフルのリズムやスライド・ギター、8曲目の「人類を憐れむ歌」のブルーズ・ハープが加えるブルージーな音色や、「人類を憐れむ歌」のパーカッションが醸し出すラテンのニュアンス、10曲目の「梟雄」でギター・ソロが奏でるエスニックなメロディなど、さまざまなルーツ・ミュージックのエッセンスが感じられますが、それらはさっきおっしゃっていたネイティブ感に繋がってくるわけですね?
コレ:そうですね。「かみさり」も、一番《純和風》みたいな顔してますけど、たぶん和の旋律は入っていないと思うし、実は日本的なものとかはあまり意識してないです。逆にそこを意識していたら、スケールが小さいものになってたかな、と今振り返ると思います。日本的なこととか意識しなくても、昭司さんが歌って、鐵槌がやれば、ちゃんと映えるし日本的なものに聴こえるって分かってたので。だから恐らく、音楽的にはむしろ洋楽っぽいアプローチをしてるんだと思うんですけど、あんまりそういう風に聴こえないみたいな感じが結構面白いのかなって、作り終えて思いますね。そもそもロックのフォーマットでやってる時点で欧米風ですからね。
昭司:言葉の強さでなるよね、日本っぽいっていうのは。
― ― では、歌詞を書く上では強い言葉を意識しながら?
昭司:歌の良さって、自由に過去にも行けるし、未来にも行けるし、偉人にもなれるし、貧乏人にもなれるしってところだと思ってて。詞の世界って制約がないから、強い弱いじゃなくて、ほんとフィーリングなんですよね。「それって歌うことに意味あるの?」って思われるかもしれないけど、俺の中のリアリティってそういうものなんですよ。事実を右から左に並べるものじゃなくて、その言葉を聴いて、そういうものが頭に浮かぶ。それがリアリティだと思ってるんですけどね。
『日本狼』は日本刀の硬さ。
『士』は、逆のたわみ。
次はその2つを持つアルバムにしたい

Drums. 千葉浩靖
― ― 歌詞には難しい漢字がいっぱい出てきます。
昭司:難しくないでしょ(笑)今回は。
― ― そうですか?聴きながら、何度も辞書で調べました(笑)
昭司:それもいいですよ。でも、昔より楽ですよ。携帯で手軽に調べられるから。
― ―「人類を憐れむ歌」の《魔除い》と書いて、まよいと読ませる当て字が面白いと思いました。
昭司:そういう洒落と言うか、遊びが入っている方がいいでしょう。
― ― 洒落が利いた当て字は他にもいろいろ使っていますね。
昭司:見て楽しんで貰いたいからね。殺伐としているのは嫌なんですよ。機械的と言うかね。そういうものではなくて、洒落が利いてて、捻りがあって、そういう方がカッコいいじゃないですか。俺達は子供の頃、映画なり何なりを見て、そういう大人がカッコいいと思ったから。今の大人よりも全然カッコよかったですもんね。今は、健康に悪いから煙草をやめろって言うけど、俺が子供の頃は、煙草を吸っている姿がカッコよかった。カッコいいな、大人になったら煙草を吸わないとなって思ったんですよ。風情って言うのか、物腰って言うのか、バンドでもそういうのがやりたいですよね。「今日は来てくれてありがとうございます」って言うロック・バンドがいるけど、そういうものではないものをやりたい。今流行っているものとは違うかもしれないけど。
― ― 今は大人らしい大人がいないですからね。
昭司:みんな若返ろうとしてるもんね(笑)俺達の頃は、早く大人になりたかったんだから。逆なんだよね。でも、歳は食うもんなんだよ。
― ― 見て楽しんで貰いたいとおっしゃったとおり、ブックレットに載っている歌詞も曲ごとに文字のフォントが変えられていて、目でも楽しめるものになっていますね。
昭司:作品の1つですからね。CDが売れない時代とは言え、ちゃんと丁寧に作ってますよ。
― ― ところで、今回、入りきらなかった曲やアイデアもあるのでしょうか?
昭司:ないです。全出し(笑)
コレ:俺はあります(笑)
昭司:俺はもうおなかいっぱいよ(笑)最後の方とか「この曲、入れない事にしちゃダメ?」ってコレに言ったら怒るかなと思った曲もあったくらい(笑)そう言えば元々、10曲の予定だったんですけど、士にしたかったから11曲にしたんですよね。十一で「士」なので。
― ― なるほど!
コレ:それで、「オープニングにプロローグ的な曲を入れよう」って言われて、もうオケほとんど録ってたから、今から出来る範囲のことで考えて、「そうだ!YUMIRRINさんにアカペラを歌って貰おう!」って思いついて、1曲目の「祷」を作りましたね。
昭司:祝詞みたいなイメージだったんだよな。
― ― さて、気が早いと言われるかもしれませんが、次のリリースについては、どんな風に考えていますか?
昭司:『日本狼』は日本刀の硬さ。『士』は、逆のたわみ。日本刀ってその2つがあるからこそ強いものになるじゃないですか。いつ出すかはさておき、次はその2つを持つアルバムにしたいですね。あらゆるカテゴリーのバイアスを、叩き潰す。
コレ:いつまでやれるかなんて分かんないですからね、遠く無いうちに。鐵槌の音楽は聴く人を選ばないので、全ての人に自由に楽しんで欲しいです。

過去の音源しか知らない者には突然の変化に思えるかもしれない。また、新たに聴いた者にはどう映るのだろうか?しかし今のこの音こそが、現在の鐵槌そのもので在ると確信している。幽玄な音、匂い、皮膚の粟立つ感覚、衝動とアドレナリン。解放感、興奮、高揚感、そ して誇りを譜に込め。全てがこのアルバムの中に生々しく宿っているだろ?
日本、世界のあらゆる人に愉しんで聴いてもらいたいと思う。
敬意と感謝を込めて。
鐵槌 田中昭司
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